きらん風月 永井紗耶子
「木挽町のあだ討ち」で直木賞を受賞した永井紗耶子氏の受賞後最初の一作、「きらん風月」。期待を裏切らない名作を世に送り出した。
その主人公は栗杖亭 鬼卵(りつじょうてい きらん)。武士であり浮世絵師でもあり戯作者でもある。鬼卵の半生を見事なタッチで描き続ける。
そんな鬼卵が寛政の改革を老中として推し進めた松平定信に、昔語りを話しながら人のあるべき姿をとうとうと語りつくす。
勿論、鬼卵とて死別した妻夜燕との別れに挫折の重さに苛まれる。そんな作品の中で、永井紗耶子氏は心に留める言葉を書き記している。
「物を思い、考え、書き、歌う。それは人が人である証。食うことのためだけに生きるわけではない。そのことが己を支える誇りになります。荒地にあってこそ、歌も絵も書も、潤いの滴となりましょう」その言葉は、何よりも荒れて乾いた鬼卵の心に、一滴の水となって沁みた。
なんて素敵な言葉だろうか。人生の生き方、考え方をこの短い文章に刻み込んでいる。「実に見事だ」
そんな「きらん風月」手に取って眺めてみてはいかがだろうか。作品の中には蔦屋重三郎の名も出てくる。来年のNHK大河ドラマで蔦屋重三郎こと「蔦重」が主人公で映像化される。そんな所も読みどころだろうか。
一冊の書物が人の心を動かす。
作家とは素晴らしい人たちである。
この記事へのコメントはこちら