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「いせや」に「帝国ホテル」

  

桜の花が散りだした。桜吹雪の舞う中、花冷えで肩を震わせながら歩くのは井之頭公園。しかも小雨が降り続いている。

「さぶい!」しかも、もうすぐ一時間は経つだろう。井之頭公園入口にある焼き鳥の名店「いせや」の前で、席が空くのを待ち続けている。

この店、昼の12時開店である。しかし到着したのが12時半。初回の客が入り終わって、次の打順を待ち続けているのが列をなしている今の客。20人は並んでいるだろう。小雨降り続き雨の雫もものともせづに、なかなか帰らない客を待ち望んでいる。

自ら経験でも早くて1時間、家族連れもいるので、そう長くは席を温めまいと目論み、1時間経てば動き出すはずと予測を立てれば、案の定ちらほらと客が帰り出す。

「しめた。もうすぐ席が空くぞ」こんな時、会計を済まして帰る客は神様に見える。時計の針は1時半を回っている。その時、「次でお待ちのお客様」呼びかけの声が小鳥のさえずりに聞こえるではないか。

通された席は2階の和室の座席。「こちらでよろしいでしょうか」よろしいも何も酒が飲めればどこでもいい。寒くて体を温めるは熱燗から発信。「熱燗二合に焼き鳥塩でね。ポテトサラダ、お決まりのシューマイ」。

そんなこんなで、花より団子。「いせや」で胃袋膨らませ、心も体も満タンにして時の経つのを楽しんでいる。と言うもの、今夜のディナーは帝国ホテルで食事となっている。

帝国ホテルだよ。定刻のホテルじゃない。くどいようだが「帝国ホテル」である。

「なんでそんな所に行くんだよ」四の五の言わずに、兎に角豪華なホテルで食事なのだよ。鼻っ先には焼き鳥の匂いが揺れ動く中、気持ちはリッチな心持でレストランの扉を押した。

若い女性が白のシャツに黒いパンツ。ソムリエエプロンが実に良く似合っているそんな姿で応対する。メニューを眺めれば横文字がカタカナ尽くめで列をなす。よく分からないが、何とか注文も済ます。

さて、これからだ。ハイボールを頼めば「どちらのハイボールにしますか」と来た。まさか一番安いの、とも言えず「任せるよ」と答えてはみたが、不安は残る。

「ジョニーウォーカーのブラックを用意しました。」来たぞ来たぞ「ジョニ黒」って奴だ。今こそ安くはなったが、昔は1万近くの値段、しかも帝国ホテルだぜ。

不安をよそに会計を済ましたが、これで焼き鳥何本食えるんじゃいと反省を重ねながら、ホテルの一階に出れば高級そうなパン屋があった。食パンがまだ幾つも残っている。「明日はパンにするか」と店に入りかけると、若い店員がすっ飛んでくる。

「さすが、帝国ホテル。客を入口まで迎えに来るのか」と思いきや「お客様。店は閉店でございます。」なに、「あの食パンだけ欲しいんだけど」しかし売ってはくれない。きっとあの残ったパンは明日の朝食に使うのだ、と勝手に思って店をでる。

さらには驚いた。外に出れば、白のリムジンが三台も横付けされているのだ。「俺をお迎えか。まさかね」ホテルにリムジン、こりゃ芸能人かセレブのお迎えと思って遠目で見ていると、観光のおばちゃんがぞろぞろとリムジンに乗り込むではないか。

いやいや。やはりホテルは東横インのほうが性に合っている。さらには焼き鳥食っている時のほうが、我が身に合っていると、つくづく実感してしまった。

その晩,スーパーで買ったおでんを煮ながら、ホッピーをがぶ飲みしたのだが、実に旨かった。


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