こころ
一冊の書物が手元にある。夏目漱石「こころ」である。
鎌倉の海岸で出会った「先生」。その先生と学生のやり取りは何とも不思議な会話が続く。そして届いた長い手紙には先生の遺書がつづられ、親友とともに女性に恋をしたときから始まった先生の過去が語られる。
そんな重たい話を、桜の花が満開なこの時期、しかもWBCで日本一になったそんな時、このような本をなぜ読み続けるのか自分でも不可解な気分になる。
されど途中で止める気分にならないのも事実である。
私は本を何冊か同時に読み進める。今日が夏目漱石なら明日は浅田次郎、はたまた恩田陸へと向かう。であるから、何冊の本が中途半端なまま存在する。しかし、再び読む時途中からでもその世界にすぐ入り込めるのが、実に楽しい。気分で読むべき本を選ぶという何とも贅沢な生活である。
一人の友人から勧められた読み方なのだが、その本好きな友人も今はこの世に存在しない。白血病という悪魔に襲われ残念ながら闘い敗れ亡き人となってしまった。
ただ、この数冊同時進行の読み方は遺言として私に受け継がれている。しかし、「こころ」だけは他の本に移るきっかけが掴めずに毎日ページを紐解いている。実に、不可解だ。
話が飛ぶようだが、酒の世界にも同時進行的なものがある。今日は日本酒、明日は焼酎、はたまた次はウイスキーなんぞとあちらこちらに飛びながら酒を楽しむ。どうも浮気性なのかもしれない。
そんな私が、この本だけは通読するように手元から離れない。何故なのかいまだ「疑問である」。
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