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ボルガ

  

新宿駅の西口は、小田急デパートの改装もあって風景が一変していた。大江戸線の新宿駅西口から地上に躍り出ると一瞬方向が分からなくなった。

「そうか、小田急がここにあったのが今はね」周りを見やるのは私だけではなかった。「えっ、こっちでいいんだよな」と戸惑いながら小田急ハルクを探す。その裏側には「ばん焼 ぼるが」が存在した。

12年前、この店で杯を重ねた。この間、コロナがあって次から次へと飲み屋が閉店する中、この店も大丈夫かと心配したが無事に営業は続いていた。

午後5時。時間と同時に店に入るが「ご予約ですか」と一言「いや、予約なしだが大丈夫かね」と交わした言葉の先に「どうぞ」と奥に案内される。

壁には山本薩夫のチラシが貼られている。色はくすみ風が吹けば飛ばされそうなチラシだがこれに味がある。それもそのはず役者の三兄弟、山本学・圭・宣の父親がこの「ボルガ」の設計者で叔父が山本薩夫監督となればチラシも頷ける。

そんな店の中は、12年前とほとんど変わりはない。ノスタルジックな電灯と壁に貼られたメニュー一覧。しかし、金額は一切書かれていない。以前は店のツマミ全てが500円だった。ただ今は550円だと思う。値上げも時代の流れだ仕方がない。

さて、この店創業者は俳人の高橋茂氏である。よって、俳句好きも訪れる。そして役者やその関係者もこの安酒を煽りに席を温めている。吉田類氏も当然ではあるが訪れている。

かつては2階で飲むことができた。しかし残念ながら今は一階だけの営業ではあるが、客足は5時過ぎ早々に溢れる数が押しかけてくる。あれよあれよと満席になった店内は入店を断る人数になって来た。

酎ハイを重ねて飲みながら焼き鳥を頬ばる。時代の流れが一気にタイムスリップしたように50年前の自分を思い出す。

「あの頃は金がなかったが楽しかった」そんな思い出も、ここボルガだから感じるのかもしれない。もう一杯酎ハイを飲んで後は次の客に譲ろうと思う。「酎ハイ、勿論550円だよ」。


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