京都の街 綴(tuzuri)
京都の旅も今回で最後になる。二泊三日の徒然なる旅の行先は、天橋立そして高野山と電車の進むまま、足の向くままに時間を追った。
そんな旅も夜になれば、ゆっくりとお銚子の先から滴り落ちる美酒を受け止めながら、舌鼓を打ちたいものだ。そんな店は烏丸松原を東に、一筋目を北に曲がると正面に平等寺がある。そこまで来れば、「綴」の香りが感じられると思う。
月夜の晩にポツリと映る店の灯りをくぐれば、おばんざい並ぶカウンターの数席に案内して貰える。
さて、ここで一言蘊蓄を傾けるが、京都のおばんざいは特別な京料理がある訳ではない。京都の普通の家庭で作られてきた惣菜を意味するのであるから、それほど大袈裟な食ではない。 しかし、京都の家庭料理は実に旨い。京野菜と出汁の味付け、そこにおばんざいの醍醐味が隠されいると言っても過言ではない。
その味は、「綴」のカウンターに並ぶ大皿料理に目が留まる。「びっくりばくだん玉子」に「牛すじ大根」、酒の注文は春鹿超辛口などいかがだろうか。春鹿の超辛口は料理を邪魔しない代わりに何杯でもすすんでしまう。牛筋で染み込んだ大根を頬張る先からす~っと流れ込む日本酒、これは堪らない。
カウンターに並ぶ常連客の横で、一人で入ってきた旅の女性が、初対面の女性と静かに会話を重ねていた。女性一人でも安心して入れる店構えを仕切るのも、やはり女性の店主のようだ。
カウンター越しに聞こえる京都の言葉は、ほんのりと柔らかい。そして酒にも、そして料理にも、東京のべらんめえ口調とは違う、静かな語り言葉が染み込んでいる思いがしてくる。
おばんざいに乾杯を重ねた、京の街であった。
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