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民宿「浅間坂」

  

遠く山の彼方を望み見れば、ここは東京のはずれもはずれ桧原村。

とおに忘れていた思い出を蘇れば、ロン・ヤス会談でこの地の名前が一躍有名にはなったが、それでも行く機会は数少ない。

街道沿いには野﨑酒造の「喜正」の文字があちらこちらで見受けられる。

東京の西を突き進み、そこは静かな山すそ。その中で昔ながらの日本酒を手造りしているのが、「喜正」である。

ところが残念、今回は「喜正」の話ではない。

宿泊先の民宿「浅間坂」について書かせてもらいたい。

そこでまず、行き方だ。東京と思って甘く見ていたらいつまでたってもたどり着けない。そんな場所にもかかわらず、待ち合わせ場所に遅れて来た不甲斐ない奴が居る。メールで一言「先に行ってタクシーで行くから」。ところがどっこい、JR五日市線の終点、武蔵五日市駅から車で40分は確実にかかる奥の奥である。タクシーに乗ったら幾らかかるか。

と、説明が横に逸れたが、武蔵五日市駅からバスだと1時間はかかる道のり。何たって、途中車で走っていてもすれ違う車は数えるほどしかない。そんな場所だが、これがまたいい所なのだ。

であるから宿に着いた時には、宿泊の2文字が大きく胸躍らせる。そして流した汗は檜風呂と岩風呂が優しく包んでくれる。
しかも朝に入った風呂場から望む景観は、時の流れを止めてしまう、まさに自然の宝庫だ。

食事は、山の自然食材。もちろん無農薬野菜が心と体を癒してくれるのだから、飲む酒の味わいも格別だ。注文の酒は「喜正」で攻めてみるのが常道だろう。

全館すべての部屋からは、県境の笹尾根が展望できるという。何とも贅沢なシチュエーションを、翌朝の空気と一緒に味わうのが朝食前の贅沢と言えよう。

その民宿。旦那は大工さんだそうだ。女将さんが「今日は寄り合いで留守なんですよ」と笑って応えた。
そんな会話を交わしている間に、旦那から電話が入った「今日は挨拶できなくてすみません」と、何て律儀なんだ。

酔いに絡ませ、夜は更けてゆく。

日頃のストレスを桧原の宿で、ゆっくり洗い流すのも粋ってもんだが、いかがだろうか。


コメント一覧

  1. うーさん より:

    民宿「浅間坂」は私も行きました。よくもまぁあの崖ぷっちに建てたものだと感心しました。

    実は民宿の裏山の尾根は甲州街道なのです。とはいっても山の甲州街道で地元の人が昔ここを通って新宿に飲みに行ったそうです。尾根から新宿の高層ビルが見えます。

    秋川渓谷はとてもいいところです。この先にはかずまの湯があります。昭和40年頃まではランプ生活でした。宿では熊の肉や猪なべを出してくれました。また歴史などを調べるのには面白い場所です。

  2. 月の明かり より:

    うーさん、ご無沙汰です。お元気でしたか、月の明かりです。

    「浅間坂」行きましたか。いい所ですよね。

    そうそう、本当にあの崖淵によくもまあ建てたものだと驚きます。
    ただ、あの場所だから、あの景観が望めるんでしょうね。

    新宿まで行く元気はないけど、あの地域では何処に飲みに行くのかと考えると、納得ものですね。

    秋川渓谷で釣も楽しみました。

    あ~、また行ってみたい。

  3. 港区新橋 より:

     ああ・・もうすぐ一面の雪景色の季節
    夜は新雪が音を包み無音の世界、月明りは雪に反射し街燈も
    民家も無い辺りをキラキラト照らし、酒を飲みながら薪ストーブにあたり
    よく酒を飲みすぎました。
     年末の火災皆さん無事だそうで安心しました
    民宿浅間坂再興を願いながら読ませて戴きました。

  4. 月の明かり より:

    港区新橋さん「月の明かり」です。

    まあ、民宿浅間坂よくご存知で。
    まさか、そのご関係の方ですか?

    昨年末に、火事にあわれて営業がストップしてると聞きました。
    いやはや、残念。

    浅間坂は貴重な国民的財産です。
    その宿泊場所が利用できないなんて…。

    一日も早い営業再開を期待しています。

    そして、「港区新橋さん」の前文の書き出し。
    これは、名文ですよ。
    新雪の眩しさと、新酒の青みがかった色合いが、重なり合います。
    いい文章に乾杯です。

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