千葉県森酒造店「飛鶴」無濾過本醸造生原酒
いつのまにか
ゆったりとした足取りになっていた
いつのまにか
頭を上げて空と雲を見ていた
いつのまにか
微笑んでいた
そんな言葉が似合う町。千葉県のちょうど真ん中にある町、それが「久留里(くるり)」である。
木更津駅からJR久留里線に乗り換えてみよう。そして「久留里駅」で降り立てば、静かな、ゆっくりとした久留里時間が刻み始める。
列車の姿が無くなった単線の先には、寂しさが感じられる。でも、振り返って望み眺める里山の情景に、足が自然と動き出す。
一歩踏み出せば、靴の底から春の暖かさが感じられる。さあ、歩いてみよう、そして探してみよう酒蔵の水を支える自然の恵みを…。
と、書き始めたが、実は「まだ、行ったことがない」のである。
お酒とパンフレットを頂いただけなのだが、何だか自分で行った気分になるのが日本酒の魔術である。
静かに眠る山里に、創業以来、百有余年。代々受け継いできた酒蔵が、森酒造店である。
森の中のきれいな空気、愛宕山麓に湧く名水。厳選され、磨かれた酒米。
そんな自然の恵みに、越後杜氏の熟練の技が加わり、清酒 「飛鶴(とびつる)」 は生まれたのである。
あくまでも手造りにこだわり、醪(もろみ)の声を聞きながら、一本一本じっくりと丁寧に仕込んだその味は「旨い」。
旨味の先に、水の良さが感じられる。丁寧に、優しく搾られたのだろう。
ほんのりと感じる吟醸香は、飲み手の鼻先をくすぐるのが、たまらない。
春先、久留里の町を酒蔵見学で歩くのもいいものだ。森酒造以外にも、藤平酒造、吉崎酒造、須藤本家と蔵が待っている
旨い酒を飲んだような余韻を味わった。山道を歩き一休みしながら少しの酒を口に含んだかのような錯覚がする。酒飲みの気持ちをくすぐる酒詩(さけうた)である。私も七十年近く飲んでいるのに気のきいた言葉が浮かんだことがない。