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天路の旅人 (沢木 耕太郎著)

  

友人は一冊の本を私に勧めた。その本が「天路の旅人」。

なぜこの本を読ませようとしたのか。一体何を汲み取れと私に語ろうとしたのか。

西川一三は8年間もの間、中国の奥深くに潜入したスパイであった。しかも第二次世界大戦の末期、そんな敵国の地で密偵として生き、戦争が終わった後も広大な中国大陸にチベット仏教の蒙古人巡礼僧に成りすましながら旅を続けたのである。

その生き様は、あまりにも壮絶であった。生きるか死ぬかの狭間を歩き、寒さに耐え、空腹にも耐え、山を越え、雪原を歩き続ける。そんな過酷な中でも、人との繋がりに喜びを見つけ、太陽のぬくもりに感動を覚える。刑務所さえ何不自由なく食事につける喜びとして感じる。

人が抱く欲望の数々から解き放たれれば、ある意味、悟りの境地に到達するのだろうか。彼は見ていない世界を観るために歩み始める。それが苦しみの連続でも、前に前へと進み続ける。

戦後、西川一三は一冊の本を出している。「秘境西域八年の潜行」総ページ数2,000ページに及ぶ大作品として世に出た。その作品を元に沢木耕太郎は572ページの単行本として25年の歳月を費やして書き上げている。

一人の男が歩んだ道、その道を追い求めて書き進めたノンフィクション作家の圧巻の一冊。

沢木耕太郎はあとがきの中で、「西川一三を書く。しかし、その彼が自らの旅について記した『秘境西域八年の潜行』という書物がありながら、あえて彼の旅を描こうとするのはなぜなのか。私は何度も、そう自問した。そして、やがて、こう思うようになった。私が描きたいのは、西川一三の旅そのものではなく、その旅をした西川一三という希有な旅人なのだ、と。」

友人はなぜ、この本を私に読ませようとしたのか。

その答えは本人から聞いていないし、聞くつもりもない。

しかし、西川一三の生き方を感じ取れば、自ずと回答は得られると感じながら、読み進めた。早朝3時から起き、3日間で読み終えた時、得るものは作品の素晴らしさが物語っているのではないだろうか。

人は生きている事に正面から向き合う必要があるだろう。多くを欲せず、人と比較することなく、明日への一歩を自らの足で、自らの力で歩むことを改めて考えるべきだろう。

そんな感情が心の中で大きく膨らみ始めた一冊であった。


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