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鎌倉物語

  

こんな季節になると、鎌倉に行きたくなる。理由など何もないが、なぜだかあの街が好きだからである。

前の晩に藤沢で泊まって、早朝から大船経由で鎌倉駅に降り立った。まだ、早朝の8時過ぎ。通勤時間帯ともあって、観光客の姿は目に留まらない。どこの街でも感じる通勤客の緊張感が、やはりこの鎌倉でも感じ取ることができた。

「そうだ朝食をとろう」

小町通りに入って、最初の十字路を左に折れる。数十メートル歩いた右側に「cafe vivement dimanche」と書かれた立て看板が目に付く。半地下を降りれば、朝のモーニングにうって付けの店にたどり着く。

コーヒーとワッフルで600円程度だろうか。コーヒーはエスプレッソをアメリカン風に柔らかく仕上げてもらった。そしてワッフルは何年振りかで食べる異界の食べ物である。若い女性ならその姿も絵になるだろうが、オヤジのワッフルはいだだけない。しかし、メープルシロップとバターの組み合わせが甘く口の中に広がって、ほろ苦いコーヒーと実に合う。「ちょっと感動だ」。

静かな朝の時間を、鎌倉で送れるとは思ってもみなかった。

右手には一冊の文庫本が握られている。「ビブリア古書堂の事件手帖」三上 延著、読んだ事のある人なら「はは~ん鎌倉ね」と思うのと同時に表紙のイラストが少女漫画で出てくるような主人公の描き方に、ブックカバーで隠さなければ持ち歩ける年代ではない。

北鎌倉を舞台にした、この作品。勿論ビブリア古書堂たる店はどこにもない。それでも、作中に流れる古書の香りは、ここ鎌倉には似合いの設定である。

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鶴岡八幡宮から北鎌倉に向かう坂道をゆっくり昇ると、途中に鎌倉 歐林洞が見えてくる。11時開店には少し早い到着となった。渋皮付きのマロンにラム酒を加えて焼き上げるショコラ ノア、この味は待ってでも手に入れたくなるオツな菓子である。

店の前で、アイボリー色のブックカバーで包み込んだ文庫本は待ち時間を忘れさせてくれる。主人公の栞子(しおりこ)さんは、しばらくの時間、私を虜にした。

「そうだ小町通りの古書店に寄るとしよう」

土産の菓子を片手に、そしてもう片手には一冊の文庫本。花粉で目はしょぼしょぼするが、小町通りに再び歩く足並みは、いたって軽やかだった。

日本酒を探すのではなく、街の雰囲気を肴に、そして本に魅了されてゆっくり過ごす、そんな時間も粋な生活だろう。

帰りに、ソーセージで赤ワインを、シラスピザで白ワインを楽しいんで帰路についた。結局、飲んで食べての鎌倉になってしまった。


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