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山廃仕込み

  

路地裏に「やきとり」と書かれた赤提灯の店を見つける時があります。なんだか、人情味があって、常連が焼き鳥を食べながらテーブルにお調子並べて、店の主人と話してる姿は何とも言えません。
暖簾をくぐれば、そこは憩いの場所です。

そんな店を、昨夜は覗いて見ました。勿論ここは初めてくぐる店。
「焼き鳥3本。330円」店の中は、10人も入ると満席です。そんな小さな店でも入れ替わり立ち代り客は来るものです。店の主人は女将さん。と言っても70に手が届きそうな、ご高齢。
「あつやき」「えいひれ」「レバーにかしら」平仮名で書かれたメニューは、何とも言えない親しみを感じます。あまり沢山注文すると忘れちゃいそうなんで、「ビールね、それから焼き鳥。塩でね」二つ三つ頼んで「とりあえず」と一言添えます。

店内は、いたって静か。女将も客に話しかける訳で無し、客も静かにテレビから流れる音に耳を傾けています。何てこと無い、小さな、あまり綺麗でもない店ですが、心が和みます。
この季節、燗酒も美味しいですね。ピリリと感じる酒の感覚は、なんとも言えない味わいがあった。金額の安い酒でも、なぜか美味く感じるものです。

「山廃仕込み」と書かれたお酒が並んでいました。さて、この「山廃」一言語らせて下さい。

山廃とは、山卸(やまおろし)を無くした行程です。山を廃したので「山廃」です。
よく蒸したお米を、櫂(かい)でつぶす光景を見たことがありませんか。米、麹、水を混ぜ粥状になるまですりつぶすのです。これが「山卸」。

しかし、精米がある程度まで機械で行なえるようになって、麹の酵素が白米に吸収されるようになったので、蒸米をつぶす山卸は必ずしも必要ではなくなりました。
そうは言っても山廃仕込みは、生もと系酒母を代表するものです。速醸系(そくじょうけい)酒母に比べると乳酸菌・硝酸還元菌など酒をおいしくする有益な酵母や菌をゆっくりと繁殖させるため、育成時間が約2~4倍以上もかかるのです。

ですから、「山廃仕込み」で造った酒は、酒母そのものがアミノ酸組成が高いために濃醇な味になるのです。もっとも日本酒らしい酒として出来上がるのです。
焼き鳥などにはベストマッチでしょ。

話を元に戻しましょう。
30分も席を暖めたでしょうか。「お勘定」と店を後にした時、冬の寒さが頬を叩きました。私と入れ替わりに、50過ぎの中年男性が暖簾をくぐり、目線があった私にペコリと頭を下げました。もちろん私も笑顔で挨拶です。
「ビール頂戴」店の奥から、かすかにそんな声が聞こえて来ました。

「さあっ!」と気合を入れて、空を見上げると、夜空は快晴、星空でした。
こんな店が、私は大好きなのです。


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