棟方志功展
さてさて、また旅の空での話になる。
富山駅、きときと市場とやマルシェの中にある「ふるまいや」で足を止める。酒器や小皿などの錫製品が店を飾る。目に留まるは錫の猪口、しかも猪口には富山から望める北アルプスが刻み込まれている。「これは素晴らしい」
錫の酒器は「酒の旨味が柔らかくなる」とも言われているので、飲む時の気持ちが変わる。旨い酒は旨味が増して、不味い酒は「それなりに」旨くなる。「らしい…。」
そんな店で購入を決め、これから富山美術館に向かう。生誕120年になる棟方志功展に足が向くのである。
世界のムナカタと呼ばれ、版画の巨匠であり、油絵や雑誌の装画など幅広い世界にその芸術性は広がっている。強度の近視のため板に顔を近づけて一心不乱に彫り続ける姿は、だれの心にも記憶として残っているだろう。
私が棟方志功と出会ったのは、テレビドラマの「おかしな夫婦」。渥美清演じる棟方への演技力は見るものを引きずり込んだ。「実にうまい主役だった」。
そんな出会いから、棟方志功へのファンとして月日が過ぎる。倉敷で展示されている大原美術館でも、その魅惑に溶け込んだ瞬間だった。
ただ、棟方と言えば青森だろうと思われる人も多い。それは棟方の原点に「ねぶた」があるからだ。幼、青年期を過ごした思い出の中に「ねぶた」でのエネルギッシュな躍動感が作品の中にも反映されている。
しかし、疎開地として過ごした富山県福光では新しい版画への挑戦が始まる。黒地に白い彫線が加わり、黒い大画面の作風に繋がっていくのである。
そして棟方の作品には「女性の裸体」が数多くある。そこには世俗の女性の姿ではなく、神の姿、仏の姿として女性の美しさを表現したところに感動を覚えるのである。
「わだばゴッホになる」あの名言が、作品の数々を観ながら心に響くのである。
あっ、面白い事を伝える。この富山美術館の棟方志功展。写真撮影がOKなのだ。これは珍しい、であるから「あそこでも、ここでもパシャパシャと写しに写し続ける」のである。
日頃、酒ばっかり飲んでいるこんな私でも、棟方芸術に触れれば、ただの下戸なオヤジに様変わりするのである。
そんな思いを抱いて「今夜も飲んでやる」。
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