焼いた酒粕
子どものころ、ストーブの上に酒粕を並べて、ほんの少し焦げ目が付いた酒粕に砂糖を絡めて食べたものである。
「おやつ」感覚だったのか、みょうに好きだった。甘さの中から日本酒の香りが口の中でほんわかと広がって、ちょっぴり感じるアルコールの感触は子どもながらも大人を味わう贅沢があった。
部屋の中は日本酒の香りで充満し、なぜだか幸せ感で心の中まで嬉しさが満ち足りた思いで一杯であった。甘酒を飲む時とはちょっと違う、別の何かが酒粕の焼いた香ばしさに子ども心をくすぐったのであろうか。
幾重にも重なった酒粕をゆっくり剥がして、板状の粕を火で炙る。まるでスルメを焼くときの感じに似ているが、たまに黒く焦げすぎると苦味が出て、自分で不甲斐ないと反省したものである。
昨夜は、一人酒粕を焼いてみた。
友人からもらった粕は、板状というより、ごっそりと量のはる大袋に入っているものを「冷凍庫で保存するんだよ」と指示通り小分けにして冷凍してみたが、どうも板状になっていないと雰囲気が出てこない。それでも、レアーで焼くと「旨い」と鼻から抜ける酒の味覚に感動するのである。
ウイスキーのハイボールと決め込んだ。そして焼き酒粕を肴にコロリと氷の音をバックに喉に滑り込ませた。
何とも、合う様で合わない酒粕のつまみ。
それでも、幼少にストーブの炎を見つめ、頬っぺたを赤く焦がした映像が懐かしい想い出として甦る。
年の瀬の、静かなひと時の幻影が心をしんなりとさせてくれてたのは、やはり歳のせいなのであろうか。
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