東京路地裏
突然バーのドアが開き、一人の男が店内に進むと。
「今宵ここに集いし、迷える子羊たちよ。私はキリスト教の布教のために、こうして悪の巣窟を夜毎回っております」と、たどたどしい日本語でシャベリ始めた。しかしどう見ても日本人である。
髪はキチッと七三に分けられ、背広のエリを立て牧師がよく着ている、スタンドカラーの上着のような按配である。手には聖書よろしく少年ジャンプを持っている。胡散臭く「なんだ、こいつは?」と思っていると。
「神はこう申しております」と語り始めた。
一旦言葉を切ると、やおら少年ジャンプを広げ、それを読み始めた。
「マタイ伝13章32節には、こう書かれております。『やったな万吉、よ?し見ていろよ。バキッ、ドスッ。チキショウ、覚えていろよ』これは神の言葉であります」
なんのことはない、そのページにある、漫画の吹き出しと擬音をよんでいるだけである。ちょっと頭がいっちゃっているのか?
そして男は突然「あなた方は、こうして悪魔の水などを飲んで、魂を売っております」と言うが早いか、それを飲み始めた、そして次から次へと客の酒を美味そうに飲んでは、「悪魔の水、悪魔の水」を繰り返す。
そして男は、唖然とする我々を尻目に、何もなかったように平然と店から出て行ってしまった。
「なんだ、今のは?」
二十分も経ったであろうか、その人物が再び店に入ってきた。
訊くと、あれから何軒かの店で同じようなことをやって来たと言う。
「なぎら、紹介するよ。こいつ森田っていうんだ」
「森田?」
「俺たちは逆さにして、タモリって呼んでいるんだけど」
「何屋さん?」
「何もやってない」
それがタモリとの最初の出会いであり、まだ芸能界デビューもしておらず、赤塚さんのマンションに居候をしていた。
新宿の「ジャックと豆の木」で赤塚不二夫・高信太郎・山上たつひこ等々そうそうたるメンバーでの、思い出話をなぎら健壱氏が語ってくれます。
そんな、なぎら氏もタモリの名を冠した「タモリ倶楽部」にて、ハムカツをつまみに酒を飲む!こんな企画でよもや共演しようとは、想像だにしなかったでしょう。
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