空と風と時と 小田和正の世界
1970年のデビュー以来、「オフコース」として約20年間活躍し、さらにソロとなっても歌い続ける小田和正氏。今年76歳、それでも天を突くようなあの歌声は決して衰える事はない。
そんな小田さんの人生を、著者の追分日出子氏が約20年にもおよぶ年月をかけて、本人インタビューを中心に取材を重ねた600ページを超える大作は「空と風と時と」その本にまとまった。
出版日の翌日、僕は本屋を巡った。きっと本屋の真正面に誰の目にも留まる最高の場所に山積みになって置かれていると想像していたが、あにはからんや、書籍そのものが見つからない。
仕方なく、2軒目にやっと一冊だけ見つける事が出来た。しかし、正面どころかグラビアアイドルの写真集が並ぶ場所に置かれているとは実に不愉快な感覚になった。
ところが、三件目では真正面にあの分厚い広辞苑のような「空と風と時と」が、鎮座されているではないか。「これだよ、これでなくちゃ」と自分が著者のように小躍りしたくなった。
僕と小田さんとの出会いは、学生時代に耳にしたオフ・コース初期のアルバムから始まる。「あの雨の日傘の中で、大きく僕が付いた溜息はあの人に聞こえたかしら」ワインの匂いを聞いたときからである。
美しい調べは、一瞬自分の存在を忘れ異空間に閉じ込められた。そんな錯覚を覚えさせる響きだった。そしてハーモニーの素晴らしさは新しい和音の饗宴に感覚が研ぎ澄まされる時間でもあった。
そんな音を追い求めながら、魅了されて行った月日は思い出ではなく現在も進行し続けている。
一つの音が二つに重なり、そして三つ目の音が交わる時、音が息吹を吹き込むように踊り出す。和音の共演は変わらず僕の心を癒してくれる。
たまに、それこそ年に一度ぐらい思う時がある。「あの時音楽を続けていたら」そんな事を思いながら今日もワイングラスに注がれた「作」を静かに飲み続けている。
横にはマーティンが置かれ、テーブルの上には「空と風と時と」が開かれている。
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