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春の陽射し

  

朝の陽射しが早くなった。目が覚めてもカーテンの隙間から入る暗い空間が少しずつ朝焼けの彩に代わって、ほのかに花の香りも漂うような感覚が広まり始めている。

やはり「春だな」と実感しながら外に足を向けてみた。

梅の芽もほころび始め、桜の早咲きも春の明るさに起こされたように芽吹き出している。街の雰囲気が優しく感じられる季節感が好きである。

ツバキの一種である侘助が紅色の小さな花びらを道行く人たちに冬の終わりを告げているのか、足早に過ぎ行く人波に数歩のゆとりを伝えている。

まだ風の冷たさは頬を打つが、確実に春の感覚が身に感じ出している。

とは言え今夜も燗付けとしよう。「そうだ、いただいた酒があった。」心が浮き立つ、春のごとくである。愛媛の梅錦が冷蔵庫に鎮座する。「梅錦」とは春らしくていいじゃないか。

夕方にはちょいと早い、午後4時。宴席の準備が始まる。鍋に湯を張り、まずは沸騰させる。湯の分量と酒を入れたチロリの分量を同量にする。あっ、チロリとは酒を温める湯たんぽの事である。

鍋の湯が沸騰したらガスを止めてチロリ投入。タイマーを1分に仕掛けて時を待つ。チッチッチッと時の経つのが待ち遠しい、そして1分。

チロリから注がれる酒は、ほんのり湯気を放つ。約35度前後の人肌燗は、やわらかな味わいで心をほんのりと包み込む。

ところで、たまには燗酒の温度の表現を書くとしよう。

55℃は飛び切り燗、飛び切りに熱燗ですな。50℃に下げれば熱燗。よく言う「熱燗で一本」。

45℃は上燗。40℃でぬる燗。そして35℃は人肌燗。最後に30℃で日向燗となる。まだその下の温度もあるが、覚える必要がないので今日は省くとする。

そんな35度に温めた「梅錦」をすすってみる。「旨い」優しい味だ。ツマミはレンコンではどうだ。薄く切ったレンコンを酢水につけて灰汁を抜く。沸騰した湯にも酢を入れて3・4分茹でればいい感じのレンコンが茹で上がる。

マヨネーズであえると旨くなる。塩と砂糖を少量入れてもいい感じで、胡麻とパセリをかければ彩がよくなる。

そんな物を作って、燗酒を流し込めば、春の陽射しが酒の鏡に映し出されていい見栄えである。

2月ももう直ぐ終わりか。28日では少ない日数ではあるが、3月の声は春への誘い水。いい季節感に酒がさらに旨くなる。


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