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老いたるは

  

先日仕事に向かう玄関先で、後ろから声がかかった。近所に住む2歳ほどのガキ、いやいやお子さんの声だった。

「あっ、お爺ちゃんだ」「お爺ちゃん?」「オジサンでしょ」と言い返そうと振り返ると同時に「そうそう、お爺ちゃんね」と若き母親が覆いかぶせるように、息子と同意見を発した。

小生、戸惑った。流石に母親に向かって「オジサンって教えなさい」とは言えない。仕方なく満面の笑顔で「おはよう」と返してみたが、心残りを抱きながら先を急ぐ振りをして足早に車に乗り込んだ。

「そうだよな。ジジイだよな」と変な納得をしながらエンジンを吹かしてみたが、もう直ぐ車にも四つ葉マークを付けなきゃならんのかと思いながら、「ジジ臭くて嫌だな」と心の隅で感じている。

そう思ってはみたが、年寄りには年寄りの良さがある。

たとえば映画。映画館の料金は実に安くなる。ハッピー55たる55歳以上の高齢者は1,100円で観る事ができる。一般の若者は1,800円なのだから、これはお得である。であるから、平日の劇場は高齢者ばかりだ、もちろん空の会場で映像をたれ流すより、年寄りだろうが生きている限りは入場してもらいたい。その気持ちは理解できる。

そう言えば、先日高尾山でビアガーデンがあると聞いてすっ飛んで行った。飲み放題、食べ放題で5,000円、しかも高齢者は4,700円と来たもんだ。2時間飲んで食べてこの値段はお得じゃないか。

しかも、八王子の街々を緑豊かな山間から眺め、際限なく飲み続けられる感動に4,700円は割安である。しかし、高尾山に登るのが大変だと思っている貴殿にはケーブルカーという黙っていても運んでくれる乗り物があるので、安心してもらいたい。小生、2日連続で食べに行ってしまった。

おっと、忘れてはいけない。そのビアガーデン。現在は夏のプランと違って90分制で、アルコール飲み放題プランが大人4,500円、シルバーが3,900円となっているので、食べ放題は夏までおあずけのようだ。

そうこう考えると、年寄りもまんざらではない。

さすがに電車の中で席を譲ってもらったことは一度もないが、そのうち鼻でもたらしながら若者の前で吊革につかまってみようか、「どうぞ」と席を譲られたなら、まさに年寄りだ。

物は考えようである。年を取るのもまんざらではないなと考えれば「お爺ちゃんだ」とかけられた声も、心地よい響きに聞こえるのかもしれない。

最後にこの話、家人に伝えると「あんたジジイじゃん」と、いとも簡単に返り討ちをかましてくれた。


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