おっちゃん大好き「吉田酒造」
蛙の声が唱和する田園風景の一角に、その酒蔵は静かに熟成の月日を重ねていた。
石川県白山市「吉田酒造」である。
明治、大正と豊かな水と米に囲まれ、頑なに手造りの酒を守り続けているその蔵は、優しく客を迎え入れてくれた。
5月の連休、蔵にとっては冬の搾りが終わって、一段落した所。突然の観光客を受け入れてくれるのか不安ではあったが、そこは心意気の問題。「事務所」と書かれた矢印に向かった。
秋から、冬を越した「酒林」は、茶色く色を染めていた。入り口に横三文字の暖簾が風にそよいでいる。その文字「手取川」。
入り口では、ひんやりと冷蔵庫の明かりが視野を確保してくれた。その奥からは仕込み水が流れ落ちる音。
数名の人たちが奥を横ぎった。その中から「どうも、どうも」と穏和な笑顔で迎えてくれたおっちゃんに、「利き酒いいですか」と声を掛けてみる。
「いいですよ」と気さくな対応だ。
「休みの日でも、結構お客が来るんですね」と言ってはみたが「いやいや、親戚の者ですから気にせずに」と、何とも初めての会話とは思えない暖かい言葉の投げ合いだ。
冷蔵庫から、好きなのをどうぞ、と全部飲んでいいと言う。しかも、好きなだけ注いでくれと言わんばかりだ。
取り出し並べた4合瓶が8本。さらには古酒も加えて10本は並んだだろうか。
グラスのお猪口に、次から次ぎへと酒が試されていく。遠慮どころか、容赦がない。
純米吟醸から大吟醸へ、さらには、あらばしりの生酒へと会話の流れと同時の酒は運ばれていく。
「吟醸香」の強いものは後に回しながらも一つ一つ堪能しているのだが、それは酒飲みの卑しいところ。並ぶ酒瓶に加えて次の酒と冷蔵庫から目が離せない。
ああ、何だか米の旨みが、蔵で熟成を続けたその産声を、お猪口の壁面に香りを添えて、呼びかけてくるようだ。その返事の言葉は「旨い」の一言につきた。
「旨味」だけではない、人の手の温もりが味に優美な光を伝えていているのであった。
静かに流れる仕込み水は、「和らぎ水」として喉越しを洗い清めながら杯を重ねていく。だから、酒蔵は好きなのだ。
まだまだ蔵での時間は、名残惜しかった。空港の時間が、背から糸を引く。
時間は大丈夫かと気に掛けてくれたおっちゃんに礼をいいたい。しかも、その温厚な話の流れと人柄が大好きになった。
飛行機の中で、蔵の思い出を夢枕に、そして羽田空港は、短い旅を終わりにさせてしまった。
そして、本日。
吉田酒造のホームページ「社員紹介」で、昨日のおっちゃんとの再会に期待を込めた。そこで、驚くべき笑顔再会であった。そのおっちゃんは、社長の吉田 隆一氏ではないか。
「どっ、ひゃあ~」吉田社長殿、利き酒と言いながらグビグビ飲んで「ごめんなさい」。
それに、ほとんどタメ口で「ごめんなさい!」
わざわざお越しいただき有難うございます。そしてお酒もたくさんお買い上げ有難うございます。
実はうちは1年中、店を開けています。お客様に美味しいと言って頂けるだけで元気百倍になるんです。
今回はブログで宣伝していただき有難うございます。また来てくださいね(^_^)/