諏訪5蔵
さて、旅立とう。
信州上諏訪の甲州街道沿い。横目に見れば諏訪湖が見渡せる。そんな場所に老舗酒蔵が5蔵、酒醸造に精を出している。しかも、歩いて行ける距離に蔵がある。
立ち寄ってみよう。最初は「真澄」諏訪大社のご宝鏡を酒名に戴く真澄は寛文二年(1662)創業、清冽な水と冷涼な気候に恵まれ信州諏訪で酒造りに勤しんできた。
その名に相応しい蔵構え。そしてもう一つ、イベント気分で申し込むことが出来る5蔵巡りの試飲旅、しかも一蔵で4~5杯飲み比べとなれば、心は踊る。
3,000円払えばグラスと猪口をのせるセットを用意してくれる。まずは、一献。
気持ちが高揚したところで、「横笛」に向かう。伊東酒造が招き入れてくれる。蔵の入り口で高齢のオジサンが酔い気味の顔で鎮座している。
「調子はどうですか」と声を掛ければ「ちょっと酔ったね」と虚ろな目で言葉を反す。気持ちは分かる。
扉をくぐり、試飲を試みる。最初に飲んだ活性にごり酒、ガス感の強いおりがらみは口当たりが実に見事だ。思わず「旨いね」と称賛の雄叫びを上げてしまった。
さらに続く、よい酒、よい時の「本金」に向かう。平成20年より蔵元杜氏・宮坂恒太朗氏が就任。製造量100石のごく少量に魂を吹き込む。「本当の一番(金)の酒を醸す」「(左右対称で)裏表のない商売」を追及しているのが、この蔵。
飲みやすい酒を5杯もきき酒していると、流石に目が潤む。酒豪を公言しているこの身でも、昼食に1合かましたのが影響するのか足元に緩みを感じる。
これじゃまずいぞ、と。次の蔵「麗人」ではきき酒は休憩した。すると1合缶をプレゼントしてくれる。実は、昼に蕎麦と一緒にすすったのが「麗人」だったので、ここは飛び越えても仕方がないだろう。
そして、最後の酒蔵「舞姫」で打ち止めとする。
この蔵、思い入れがある。もう何十年も前になるが「酒が旨い」と最初に感動したのが、舞姫であった。封切りと同時に部屋中に広がる吟醸香の香りは、今でも忘れない。美しく広がる旨味は、日本酒の醍醐味を最初に教えてもらったのが、この酒。その喜びは今でも自分の指針として生きている。
そんな思い入れの強い酒で5蔵最後の締めとした。今は、そんなに香りの強い酒は造ってはいないようだ。かつての想い出は胸にしまいながら試飲の酒に心を躍らせた5蔵巡りであった。
手元に残った一冊の手帳。諏訪五蔵のシールを貼り終えた一冊は、いい土産となった。


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